2016年01月31日

「『エース』とおれと影山と」

宮城代表の座を賭けた決勝戦が終わった。
応援団してくれていた町内会チームや兄姉達が祝福の言葉もそこそこに『すぐ寄付金集めしなきゃ!! みんなに連絡だ!!』と慌ただしく走り去っていく。『おう、また後でなーー!!』烏養コーチが気ぜわしく言葉を返しているのが聞こえる。その後ろ姿を噛みしめ、日向は、影山と改めて顔見合わせてしみじみと実感が沸き上がってくる。
「うおおおおーー!! 勝ったあーー!!」「春高だーー!!」「オレンジコートだーー!!」
ひとしきり、みんなで言葉にして喜びを分かち合った。おもむろに主将が呟く。
「これで音駒との約束にも一歩近づいたな」
その言葉にみんな大きく頷いた。
「これに勝ったら全国!!に勝った・・・・・!!」
日向は影山を見上げて言った。
「ああ、そうだな。また試合出来るな」
影山はニィッと笑って答える。日向は満面の笑みを浮かべた。そこへ顧問の武田がみんなに近寄る。
「みなさん、ストレッチして落ち着いたらまた集合して下さいね。表彰式と閉会式にこのまま参加しますからね」
一瞬、生徒達はきょとんとする。武田は微笑んで頷いた。
「今日は決勝戦でした。皆さんは勝ってこの式に臨めるただ一つのチームです。それと、澤村くんと菅原くんはちょっと表彰状貰う時のリハーサルがありますので早めに来てほしいのですが大丈夫ですか?」
「「「・・・・・あ」」」
菅原と東峰は、はたと澤村を見て、それから互いに顔を見合わせる。
「うわー初めての体験」
菅原が笑って澤村に言った。東峰もほっとした顔で笑って言った。
「やっと最後の最後でチャンスものに出来たんだなあ」
「ああ・・・・・そうだな」
澤村が答えて、しみじみとする三年を見つめて後輩達はふおおおと変な声を出していた。
表彰式が始まる、整列していて、日向はふと何かの気配を感じた。
その方にチラリ向くと、牛島若利がこちらを見ているのと視線が合った。
「!!」
日向は思わず後ずさりしそうになる。試合は終わったが、変わらず突き刺すような燃えるオーラを纏った牛島がじっと見つめていた。日向は唾を飲み込みながら、かろうじてそのまま見返した。
(ああ、そうだ・・・・・あんなこと言ったけど、おれは何も勝っていない・・・・・)
とたんに、身の底から湧き起こる悔しさ。すうっと頭の中が静かに覚めていくのを感じながら、日向は牛島の目を見つめ返した。



烏野バレー部はいったん学校に戻った。
「ま、みんな今日はもうソワソワしてるだろうから、今日はこれだけな。じゃあ、一発、締めて上がれ」
烏養の言葉に全員が『はい』と素直に返事をした。そこに、すいっと澤村が前に進み出た。
「あの、武田先生、烏養さん」
「はい?」
「おう、なんかあるか?」
「あの・・・・・ここまでありがとうございました!!」
澤村は深く頭を下げた。それに部員達はハッとして、一斉に頭を下げる。
「「えっ?! えええ、な、なにをそんな」」
驚く大人二人に、澤村は続けた。
「またこれからもよろしくお願いします!!」
「しゃーーす!!」
部員達の声がきれいに揃って響いて、言われた二人はじんわりこみ上げてくるものをかろうじて押さえた。
「烏野!! ファィッオーーーーー!!!」
高らかに今日の戦いの終わりを告げる声が、いつもより元気に体育館にこだました。
軽いストレッチを終えて各自が思い思いに散らばる。日向はボールを弄りながら、なんとなく最後まで体育館に残る。影山も何気なく一緒に残る。
手元にあるボールを日向は思いっきり打った後、叫んだ。
「あーっ やっぱカッケエエーーっ」
日向はあえて口に出して言ってみた。いつもやっている、自分の中に溜まりまくる前に吐き出す厄落としのような発散方法だ。
「クソっ クソっ 悔しい! けどカッケエーんだからしゃーないよな!!」
主語は言わない。が、今でも鮮やかに思い出される『牛島若利』の力強く美しいフォーム。「チームのエースとしての誇りと自信と責任」それを具体的に人の姿にしたような、そんな存在感だった。日向は唇を噛み締める。
「おれ、なんも勝てなかった・・・・・」
「試合に勝ったんだからいいじゃねえか」
ぼそっと、日向の独り言に影山は答えた。満面の笑みで喜んでた日向だったが、人一倍前向きにマジメなので反省も人一倍前向きにマメにする。影山は側の壁にもたれて座り込んで、そんな日向を見つめていた。日向も、ぐりんと影山に顔を向ける。
「そっそれはそうだけど!! だけど、おれ、何一つ敵わなかった」
「当たり前だろボゲェやっとこ本格的に練習し始めたお前がどうこう出来る人じゃねえ現況を見ろボゲェ」
「現況は見てるっっ でもそれでも悔しくてしょーがないんだからしょーがないだろっっ」
「だから悔しがるのがそもそも時間のムダだお前はまだそのレベルにいってねえだろが」
「どうしてそこで人の心折るんですか影山サンは」
そんな変人コンビの会話を、少し離れたところで、田中が腹をかかえて笑いながら聞いていた。そこへ西谷もやって来た。
「翔陽はまだ悶えてんのか?」
「おう、ノヤっさん。バス内に引き続きまだ日向ひとり反省会中〜。まーだ悔しがってる」
「ははは」
「あの初心者に毛が生えた程度の日向がウシワカに敵うわけねーじゃん。悔しがンの早すぎだろ」
「まあ、現状そうなんだけどな。けど、翔陽のあのよく分からねえが強靭な闘志を俺は買ってるぜ」
烏野の守護神は愉快げに笑って言った。田中もニカッと楽しそうに笑う。
「日向のよく分かんねー根拠ナイ自信がウチらを引っ張ってるのは確かだな」
「そうだ。ってところで、おーい、翔陽! 影山、そろそろ鍵閉めるぞー! 先生と烏養さんが軽くメシおごってくれるってよ。こないだの店、寄れるヤツは来いって」
西谷が呼び掛けると、ぱっと振り返った日向と影山の腹が、グウと同時に鳴った。もちろんバレー部全員でまたまた【おすわり】にお邪魔することになった。あの『夏の戦い』が終わった時も食べた、あのお店にもう一度、チームのみんなで行った。

今回は使うスペースの都合でテーブルが分かれていた。が、決勝戦を戦い終えたみんなの心はひとつ。
ホッとしたら一気に襲ってくる疲労感を心地よく共有した。ひととき襲い来る眠気からようやく復活したのを見て、烏養は日向を隣に呼ぶ。
「さっきから、悶々してたみてえだが、で・・・・・どうした?」
「あ・・・・・あの、おれ、なんにも勝ててなくて、チームが勝ったからそれですっごくイイんですけど、でもおれは本当にやりきれてなくて・・・・・・」
烏養はよくやってたとはここでは言わないで問う。
「牛島みたいな選手を羨ましいと思うか?」
「・・・・・ハイ」
「まあそうだろうと思うけど・・・・・でも、今の日向の動きを支えてるのもその身体だからなあー・・・・・痛し痒しだな」
「えっ?」
「日向。お前のスピードとジャンプ力が今、目一杯有効なのは今の身の軽さだからだ。重力との戦いにおいては、軽い方が有利なのは事実だ。だから、身長伸びて当然体重も増えりゃその分、今までと同じに飛べなくなる可能性は高い」
「えっ! ええええ・・・・・あ、あの、そ、それはっ」
「お前が望むことも分かるし、そりゃそうだろって思うが、でも逆に今の持ち味は無くなるってのも、まあ、事実だな」
「ううううう」
烏養も言いながら困ったように笑い、日向は唸る。
「筋肉も【重い】モンだからな、やみくもにつけりゃいいってもんでもない。張り切ってつけ過ぎると・・・・・影山のトスに合わせて動けなくなる、だからな」
「!!」
その瞬間、スッと日向の表情が消えた。烏養と、その場の全員がつい思わず息を飲むほどに。
「おれは、影山のトスが打ちたい。だから影山のトスを打てなくなる身体は嫌です」
びっくりするほど静かな声で、日向はそう答えた。烏養はコクリ頷く。
「それなら話は早い。羨ましい気持ちと自分がしたいことは別でいいんだからな」
日向はコーチを見上げた。
「エースという形はコレとか、別に決まってるワケじゃねえし」
そう烏養は続けた。日向は大きく目を見開いて大きく頷く。
「おれは飛べる!とか言ってたクセに、飛べなくなる方向に考えてどーすんだボゲ」
そんな声がそこに降ってきて、烏養は苦笑いを浮かべ、日向はまたキッと睨み上げる。
「ちっ違う!! おれは羨ま・・・しいし悔しいけど!! でも自分が持ってるもので戦いたい!! そんでもっておれが持ってるものなら、影山のトスが打てる!!」
そこまでの言葉を聞いて影山は笑う。
「なんだ、気にしてる割にスッキリ分かってんじゃねえか」
烏養が手でお前もここに座れと影山に指し示す。月島がやれやれというようにため息をつき、山口と谷地が微笑み合う。女将さんが、「今日はちょいサービスだよ」と言ってデザートを奮発してくれた。


美味しくデザートを頂きながら、縁下が田中と西谷にニッコリ宣言した。
「今度こそ、期末テスト自分で頑張らないとダメだぞ」
口調はとても優しい。
が、聞こえた変人コンビの方が背筋が伸びていた。







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というわけで、烏野男子バレー部春高出場おめでとう!!
第189話を見た時点で書いています。あれこれ感想が一杯あるけど、とにかく県大会突破おめでとう烏野vvv







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posted by 大空綾 at 20:28| Comment(0) | 書きもの(ハイキュー)
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