2015年02月08日

「誠凛ミラクルディズ」(火黒と誠凛)

出来たばかりの学校に出来たばかりのバスケ部に、初めての『新入生の春』だった。
「天賦の才?」
日向は、リコの言葉を聞いておうむ返しする。
「うんそう。すごいわー初めて見たわ生で。今日も視てみたけどやっぱり同じ、伸びしろが全く読めないのよ」
一年生とのミニゲームで即戦力が入ったのをハッキリ知った。その一年達を帰した後、『先輩』になった二年組は誰から言うともなしに残って練習していた。なんだかそうしたい気分になったのだ。そしてひと息ついた時、おもむろにリコが切り出してきた話は。
「ふーん、火神に天賦の・・・・ねえ。んーと・・・マジ?」
強い奴が入ってくれたのは素直に喜ばしい。が、ちょっと話が大きい気がして、汗を拭きつつ日向はまた聞いた。
「うん、マジ」
「天賦の才とか、ンなもん、そうそうねえだろって思うけどよ、どれくらい本気で言ってる?」
リコを見つめて日向は改めて尋ねる。その二人の会話をじっと聞く伊月小金井水戸部土田は、さらにリコの答えを待つように黙ったまんまだ。
リコは、一つ息を吐くと仲間達を見やる。
「これは本当に本気。真剣に言ってんの」
場がしんと静寂に包まれた。もっとも、リコはそれから少し肩をすくめて更に言葉を続けた。
「あと、も一つ本気で言うけど、黒子くんの方。信じられないけど数値ほぼ限界値」
「は?」
「逆に黒子くんはなんであれで帝光レギュラー取れたのか分かんない。私が視る数値じゃ並以下なのよね」
「え? えーと・・・・・・・それって・・・・・・・?」
日向以下、男子陣の目が丸くなる。でもリコは意に介さず、納得するように一人で頷いた。
「うん、今日のアレ見るとね、まあ、だから面白いかもしれないわ!!」
『カントク』は、あっさりと自分で結論を下した。
「いやいや、待て待て極端過ぎだろ・・・・・・・」
日向の突っ込みに、四人も同意の視線を投げかけた。が、そんな男達五人の戸惑いをものともせず、リコは瞳を輝かせていた。
創部やっと二年目の誠凛バスケ部は、こうして大きな運命の激流になだれ込んでいったのだが、この時はそんなこと誰も知るよしもなかった。







ウインターカップが近づく。夏の敗戦を経て、誠凛バスケ部の練習内容は明らかに変わった。カントクが、火神に特別メニューの紙を渡している。それを黒子は何とはなしに見ていた。でも別に、特別でも何でもない。と黒子は思う。
(だって明らかに“必要量”が違うから。ああいう人は。中学の時もそうだった・・・・・・・思い出しますね、やっぱり)
かつて一緒にいたチームメイト達も、いつもそれぞれ特別の個人メニューを貰っていた。のを、当たり前だと思って見ていた。
「おい、黒子。ちょっと来い」
そんなことをボンヤリ考えていたら、主将の声が掛かった。慌てて黒子は振り返る。
「あ、はい」
「ちょっくらパスワーク付き合え。フォーメーションZだ」
「は、はい。って・・・・・・・あ、あの、Zって・・・・・・・すみません、どんなだったでしょう・・・・・・・?」
言われて返事したが、はて覚えがない。黒子はおそるおそる聞き返す。
「おう、そりゃ今オレが名付けたばっかだからな。夕べ寝際に思いついてよ、マジやれるか相談だ」
主将は、そんなことをサラッと答える人だった。黒子は苦笑しながら言われた場所まで走る。
(ここの先輩達も、たいがい、スゴいですけどね・・・・・・・)
こんなことにも慣れてきたこの頃。日向からボールが来たのをタップパスで斜め後ろに送る。それを伊月が受けとる。さらに黒子へバック。
(みんな、ボクのパスを受け取ろうとしてくれる)
素直に嬉しい。自分はここで網の目を繋ぐ結び目になれる。日向が走る、その先を予想して狙うポイントにまたボールを放つ。
「うん、実際やってみるとこんなもんか・・・・・・・」
ボールを受け止めて日向が立ち止まりブツブツ言っている。黒子と伊月は近寄った。
「どうだ? 日向のイメージは?」
「主将、どうですか?」
「ん〜と、黒子、これに相手の動きを予想して出来るか?」
「え、あ、はい、頑張ってみます」
「よし、お前なら出来る。出来るぞ」
「は、はい・・・・・・・前向きに善処します・・・・・・・」
日向は伊月にも二言三言促すと、また向こうに走ってゆく。伊月も黒子に笑いかけながら言った。
「黒子のパス特化はオレ達みたいなスタイルには有り難い。期待してるんだ」
にっこりそう言って伊月も軽快に走ってゆく。
「伊月先輩・・・・・・・」
「あっ! そいでもってカガミはガタイもキタイ、キタコレ!!」
走りながらそんな言葉が伊月から出たのが黒子に聞こえた。
(・・・・・・・伊月先輩も・・・・・・・こういう人でしたね・・・・・・・)
なんだかとても残念な気分になったので、黒子は先輩への言葉は今は飲み込んだ。
「黒子!! よこせ!!」
日向がほいっとボールを投げて寄越し、また両手を挙げて叫ぶ。
「はい!! イグナイトパス行きます!!」
「うおあっちっちっ」
受け取る時バチッと音がするパスを、それでも先輩は頑張って受けてくれる。

「火神はまだやってんだな」
「はあ〜〜・・・・・・・なんかあっという間に時間過ぎるけど、オレ達、強くなってんのかなあ?」
河原が見やる先にはまだ走り回る火神がいる。河原の横で降旗がボヤいた。休憩になってすっかりうつ伏せで伸びきっている黒子の回りに一年のもう三人が集まってきて座りこんでいた。
「なってる・・・・・・・と思うけど・・・・・」
降旗の声に福田が答えた。河原は黙ってぐいとペットボトルを逆さにして飲み込んだ。
「なってますよ。ただ先輩方も鍛え上げてますから、ボク達目立たないですけど」
寝転がったまんま、ちょっと顔を上げて黒子は言った。
「え? そうかなあ?」
降旗が振り向いて黒子に目を向ける。
「はい。なってます」
黒子が肯定すると、見下ろした降旗はにかっと笑って表情を崩した。
「そっか、黒子がそう言うんならそうかな」
「そうですよ」
くすっと黒子も笑う余裕がやっと出てきて、おもむろに上体を起こすと自分も三人と並んで床に座り込む。火神が豪快にダンクシュートを決めたところだった。
「おお〜相変わらずっちゅーか、ますますスゴイな火神は」
河原が素直に感心した声を出す。
「まあな火神みたいにゃどう頑張ってもなれないけど、せめて昨日よりは強くなってたいよなー」
福田がそう言ったのに、降旗と黒子は、うんうんと首を縦に振った。
そこにファイルを持った主将と土田がやって来た。
「お前ら、ノンキに他人事みたいに言ってんじゃねえぞー」
ぽかっと主将がファイルで軽くド突く。
「あ、主将。と土田先輩。そりゃあそうですけど・・・・・・・でもやっぱ火神みたいにはなれないし・・とか思っちゃいます」
降旗が素直にそう言ったのに、日向はその前に屈むと素手でぺちっとデコピンした。
「ンなこと今のお前らが比べて考える必要まだねえよ。その前にやることやれ」
「あー・・・・・・・はーーい・・・・・・」
納得出来かねるような表情でも一年達は一応頷く。
「まあ、そりゃ俺だって後輩がレギュラー取ったりするのは悔しいけど」
ひょいと、おもむろに、土田もしゃがむと口を開いた。
「悔しいけど、でもチームが勝てるんなら、ひとまずそれでいいと思うんだ」
黒子もいるけれど、気負いなくあてこすりでもなく、言葉を続けた。
「ボロ負けしてあんな思いするより、ずっといい」
「?!・・・・・・・土田先輩・・・・・・・!!」
一瞬ぎょっとした後輩達に土田は優しく笑いかける。
「でももちろん、ちゃんと練習はするよ。いつも何でも負けてるのはイヤだし、練習ぐらい頑張らないとな」
いつも穏やかで大人しい先輩が、ハッキリ『悔しい』と思ってると、そう言った。その上で練習に励んでいると。
改めて聞かされて一年生四人は黙って先輩の言葉を胸に刻む。
日向は息を一つ吐くと、持っていたファイルから紙切れを引き出す。
「んじゃ、折角ヤル気あるようだから、ほいコレお前ら用メニューな。ちょーどいいから渡しとくぞ。河原これ、降旗こっち、と、福田の分。ほい黒子はこれな」
「はい・・・・・・・え?! ええ?!これ全部まじで?!」
降旗が慌てて主将と受け取った紙を交互に見比べる。
「お前らも黒子のイグナイト廻・・・・いやせめて普通のイグナイトぐらい取れるようになってもらうからな。まあまた次の新入生に取れるヤツ入るかもしれんけどな、だからってそれで自分らは取れませんなんて言う気かダァホ」
「「「!!」」」
「お前らが一番、火神や黒子と一緒にやるんだぞ? しっかり自覚しとけ」
そんなこと言う主将と土田の、後ろに木吉も現れて、三人を見て微笑みを浮かべた。
「うん、そうかあー、やる気満々。いいことだ。それじゃ、早速、福田、やろーか」
「え?! は、はい、すぐですか?!」
「ああ、後で火神にも入って貰って合わせるけどな。次河原もやるからなー」
木吉がほんわりと、ゆるゆるっとした顔でそんなことを言った。いつのまにか火神が近づいてきていて、、ニィッと笑った。
ひゃ〜〜と何やら叫びながら福田が日向と木吉と土田に連れられて行ったのを見送って、火神が黒子の隣に腰を下ろす。
「お前バテんの早すぎだろ」
「すみません。でも火神くんと比較されるのはツライです」
「何か、新しいパスワーク入るのか? なんかやってただろ?」
「はい。主将の思い付きをちょっと。って、しっかり見てる余裕あったんですか・・・・・・スゴイですね・・・・・・・」
「いや、だって、お前のことならいっつも見てるぜ?」
「!!・・・・もう、なんでそんなことサラッと言えるんですか」
そこに突然、ぬぅっと人の手が二人の間に割り込んだ。
「ほい火神、アクエリアスしかないけど。ドリンクやる隙間もなくイチャつくのやめてくれ」
降旗が後ろから肩越しにペットボトルを差し出しながらそう言った。
「おおサンキュー、フリ」
あっけらかんと火神は礼を言って受け取る。ふと、降旗は気づいたように言葉を続けた。
「あれ火神、ちゃんと黒子見れてるんなら、ちゃんと周り見えてるじゃん。それ試合でやれればいいだけなのに」
これまた慣れた降旗もさらりと話を振る。黒子は降旗の言葉を聞いて、まじまじと火神を見つめた。
「ん?・・・・んん? そーだっけ?」
ちょっと火神は降旗を見返してから考え込むような顔をした。河原も注視して次のセリフを待つ。
「よし、今度からオレがそれ忘れてたら、叫んでくれ」
火神はまじめな顔で答えた。あとの三人はガクッと肩を落とした・・・・・・。




「はぁ〜〜育てるって、ホントいいわあ〜〜」
うっとり夢心地でリコはまだ教室の席にいた。ほぅ・・・・・・・と一息つくと潤んだ瞳で机上のメニュー表を見直す。前から覗きこんでたクラスメイトが呆れながら笑う。
「もーリコったら、それゲームじゃなくて生身の人間相手だし、リコと一つしか違わないでしょー。なんかもう夢みる乙女というよりお母さん先生ね」
「ええ、お母さんって、そこまでいってないわよ。私カントクだもん」
そう答えたらクラスメイトはころころ笑った。そんな友達に見送られ、リコも部活に向かう。最近すっかりバスケ部専用になった体育館に近づくと、みんなの声とバッシュのスキール音が聞こえた。
「お待たせー。みんな、今日のメインこれね」
ウキウキと壁に張って見せると背後からどよめきと呻きが上がる。リコはニコッとみんなに笑いかけた。
「この全体メニュー済んだら個人用あるからねー」
「ぐえええぇぇぇぇ」
奇妙な悲鳴が場を支配したけれど、リコはきらきら瞳を輝かせてみんなを眺める。次から次へとよくあるもんだと感心するくらい、バラエティに富んだ練習メニューで、部員は飽きるヒマはない。
黒子は今日は図書委員の仕事をしてから体育館にやってきた。真っ先にその視界に飛び込んできたのは長身の二人。
(あ、木吉先輩が今日は火神くんと・・・・・あれはディフェンス・・・のパターンかな?)
マンツーマンで木吉が何かを伝えようとしている。火神は何とかそれを吸収しようと熱心に木吉の後に続いて動きをなぞっていた。部活の上下関係なんてよく理解出来ないなんて言ってる火神だけれど、ちゃんと後輩している。微笑ましく黒子は見つめた。
【キセキと同格にまで成長した時、変わらないでいられるんスかね?】
ふと、その時、黒子の脳裏に、黄瀬の言葉が思い浮かんだ。
【火神みたいにはなれないしなあ】
そう言ってた同学年のみんなの顔が次に浮かんだ。
黒子は思わず動きを止める。そして皆をゆっくり見つめた。他の者もそれぞれ練習に励んでいる。
「あ・・・・・答え、見つけました・・・・・・」
ひっそりと黒子は一人で呟いた。
問いかけてきた黄瀬は今ここにはいないけれど、問われたことはしっかり覚えている。まだちゃんと答えを返していないことも。
(黄瀬くんは・・・・・青峰くんとボク達のことを頭において言っている・・・・多分。でもそれは火神くんには当てはまらない)
【悔しいけど、練習は負けないよう頑張るよ】
そう言ったのは土田先輩だけど、きっと小金井先輩達も同じはず。
(先輩達はみんないつも前を、上を見ている。今よりも、もっと高みを目指してる。それは火神くんに対してもそうだ。誰も今が火神くんの最高だなんて思っていない・・・・でも同じくらい自分ももっと、を望んでる)
ここは誠凛だから。
これが一番だなんてまだ誰も思ってないから、いつも、さらに上を見ている。
「あ、黒子くん、来たわね。はい、これ今日のメニューよ」
見つけて寄ってきたカントクに、今から意識が遠くなるようなメニューを渡された。
(これが誠凛の本質・・・・・僕にさえ、もっと上があるだろうって言ってくれる)
今度はちゃんと答えが言えそうだと黒子は思った。






「何だか怖くなってきちゃったの。火神くんが・・・想像以上過ぎて」
「どうしたんだ、リコじゃないみたいだぞー」
リコと木吉の会話に、日向は振り向いた。
「もう今さらだろ、腹くくるしかねえだろ、オレ達が」
キセキの世代は5人。のはずだった。としたら、自分達の目の前に現れた彼は何なのだろう?
誠凛が得た者は、未だ底を見せていない。
posted by 大空綾 at 17:01| Comment(0) | 書きもの(黒バス)